社会学者の著者はこんな小説・エッセイも書く。多才だ。と言うよりも、この本を読めば見えてくるが、ミュージシャン、土木作業員、大学院生などをしてきて、現在は大学に職を得て本なども書いているといったところか。まっすぐ研究者への道を進んだのではない。著者は名古屋の出身だが、大学受験で来た大阪が気に入り、そのままコテコテの大阪人になって生きて来た。ろくに勉強もせず、大阪という街の底を這いずり回った経歴をもつ社会学者が書くものには、そこに生きる人々の体温やにおいというか、何か分厚さのようなものを感じる。
本書は二部構成になっていて、前半の「図書室」は小説、後半の「給水塔」は自伝的なエッセイだ。どちらも大阪賛歌である。著者が言う「大阪の独自性、何にも追随しない自治の雰囲気、好き勝手やってる無秩序な空気、他人にも優しいが自分にも甘いところ、とにかく街全体が反抗やルール違反や独自性で成り立っている大阪という街」であふれている。