巻末に「この物語は史実に基づいたフィクションです」とある。ということは、アンリ・ルソーの絵画をめぐってこの作品に描かれているような鑑定対決が実際にあったのだろうか。20世紀初頭の前衛画家、生前はまったく評価されなかったルソーの作品『夢をみた』は真作か贋作か。ティム・ブラウンと早川織絵、若い二人の研究者は、作品の所有者である老バイラー氏の依頼で人生をかけた鑑定対決に挑む。その過程で明らかにされていく晩年期のルソーの貧しい生活、ピカソの存在、ヤドヴィガやその夫ジョゼフとの関わり。そして、名画を手に入れるべく暗躍するバイヤーたち。
純粋にルソーの絵を愛する気持ちが作品の中に流れており、最後のまるでマジックのように作中人物がつながっていく構成は見事だ。