このとき作者は40代後半ぐらいだろうか。その年代で訪れた父親との永遠の別れ。父親が亡くなる前後の日常と作者の心の動きが、飾らない素直な筆致で描かれている。だれの身にも起こることなので、書かれていることのひとつひとつが心にしみてくる。平易でいて力のある文章。
「“大丈夫ですよ”という言葉を聞いて、一日を終えたかった。」「悲しみには強弱があった。まるでピアノの調べのように、わたしの中で大きくなったり、小さくなったり。」「なにかを処分したところで思い出は失われないのだと思った。」
*企画展示「ちっちゃな春ふぇす~六女の饗宴十八冊~」から