2016年6月、二日間にわたって開催された法学セミナーの記録。書名のとおり法学を学ぶ人たちの専門性の高い内容で、他国の憲法や政治制度、先学の研究など法学に関する知識がないとなかなかついていけない。
それでも蟻川恒正氏担当の第2分科会「個人の尊厳」では、憲法の精神の奥深さを少しは感じとることができた。蟻川氏はまず近代市民社会になって「個人」がいかに析出したかというところから述べる。人でも人々でもない「個人」。その個人に付される「侵すことのできない権利」について、権利というのはそれ自体義務だ、という氏の論理は、そこに「個人の尊厳」につながる意味が見てとれた。「個人」ははっきりとした輪郭を持つ、まさに一人一人の人間であり、「国民」というぼやけた存在とは違う。13条に「すべて国民は個人として尊重される」とある。私たち(国民)は個人として尊重されるのだ。さらに97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、・・現在及び将来の国民に、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」とある。権利=義務だとしたら、これは厳しい。私たちは永久に自由に生き、人間らしく生きていく義務がある、そういう社会をつくっていきなさいということだ。国民というぼやけた存在のまま、どなたか強い権力者のもとで安穏と生きる生き方、社会を選んではならんということだ。その厳しい義務を背負うからこそ「個人の尊厳」なのだ。議論はさらに権利と公共の福祉との関連へ続いていく。頭はさらに飽和状態になる。
*企画展示『今こそ考えよう日本国憲法(このくにのかたち)』から