雪が降っている。田舎の小さな木の家。冬の間街へ出稼ぎに行った大好きな母さんを待つ黒人の女の子。おばあさんとふたり。やってきたネコ、かあさんのにおい、届かない手紙、小さな窓、うす暗い質素な部屋、雪の原・・、物語は淡々と語られ、絵には力がある。アメリカ社会の黒人の歴史まで語っているような奥深さを感じる。大好きな母さんのことを案じながら待つ子どもの気持ちを感じとってほしい。
傑作だと思う。話のテーマも文も絵も、そしてとりわけ訳が。原題は“COMING ON HOME SOON”だが、「かあさんをまつふゆ」という邦題をつけた訳者はすばらしい。この絵本は始めから終わりまで、一冬を出稼ぎに行ったかあさんを待つ少女の寂しさや不安な気持ちを描いた作品だから。「かあさんの手はあったかくてやわらかい」、この最初の一文で、少女とかあさんの深い愛情が読み取れる。「じかんがすぎてゆく」の場面の絵。かあさんんをまつ冬のなんと長いことか。「そのかあさんが、もうすぐ、もうすぐかえってくる」、同じいつもの部屋、おばあちゃんに抱かれて何度もかあさんの手紙を読んだことだろう。“coming on home soon”はこの場面のことだったのだ。作者は少女のこのときの気持ちを一番書きたかったのだ。時代背景、家族の暮らし向き、深い愛情で結ばれたわたしとかあさんとおばあちゃん、直接には語られていないが全部わかる。人が生きていくうえで一番大事なことが静かに描かれている傑作だと思う。
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技量はありながらも小才のきかぬ性格ゆえに「のっそり」とあだ名で呼ばれる大工十兵衛。その十兵衛が、義理も人情も捨てて、谷中感応寺の五重塔建立に一身を捧げる。十兵衛にとって恩もあり名工の源太が当然その仕事を請け負う者と目されていたところへ、十兵衛の魔性のものに憑かれたような一心な想いが食い込んでいく。寺の上人様の公平な裁きの末、人格者の源太は幾度も十兵衛に苦々し思いをさせられながらも最後には十兵衛に塔建立の仕事を譲る。そして十兵衛は立派に仕事を成し遂げる。源太とその妻、十兵衛とその妻、源太の弟子で過ちを犯す清吉とその老母など、登場人物の心の動きの描写が見事だ。文章は文語調の文体で一文がとてつもなく長い。でも、その文体に慣れてくると言葉が生き生きと小気味よく情景を語り出す。
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「核家族化」が言われて半世紀あまり。家を中心とする家族制度はどんどん変容し、地域との関わりも薄れて<ひとり死>を迎える人が増えているという現実。それにともなって葬式や墓に対する人びとの考え方もずいぶん変わってきた。本書は日本各地の具体事例を紹介し、今この国でどんなことが起こっているか、そしてこれから周りの人や自分自身の死とどのように向き合っていけばよいかについて考える材料を提供してくれている。当たり前だが、死んでしまったあとのことは自分では何もできない。どんな死(死後)を迎えるかは、つまるところどのように生きたかということと連続している。人との関わりの中で生きる喜びを感じられるように生きることが大切なのではないだろうかと考えた。
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